「完熟哲学」を実践するサン・ブリで未来を嘱望される造り手

4000haを越えるシャブリに対してサン・ブリは130ha程度のごく小さなアペラシオン。この地で15世紀から続く名門ベルサンを継ぐのが現当主ピエール・ルイです。ボーヌにある農業学校で学び、2008年には世界のワイン造りを学びたいという気持ちからニュージーランドのセントラルオタゴにあるワイナリーでも研鑽を積みました。その後フランスに戻り、2010年に父ジャン・フランソワと自身の名前を冠して、それまでのドメーヌ・ベルサンからドメーヌ・ピエール・ルイ＆ジャン・フランソワ・ベルサンと名前も新たに親子2代で出発したのです。2人はテロワールを尊重する伝統的な手法と近代的な秘術を組み合わせ、所有する20haの畑からポテンシャルをより引き出したワイン造りを行っています。2010年から畑を少しずつビオロジックへと転換し、現在では全ての畑がビオロジックとなりました。キュヴェ数もそれなりにありますが、すべて天然酵母を使用し、何も添加せず素直にブドウの良さを転写したような味わいを楽しめることがこのドメーヌの特徴でもあります。また、近年明らかにナチュラルテイストに移行しており、液体の滑らかさ、アタックと果実の伸びやかさが大きく向上しています。果実の熟度、ビオロジック栽培の影響も大きいものの、他の生産者のものと比べてもサン・ブリやアリゴテの果実感は顕著。サン・ブリで未来を嘱望される造り手へと成長しています。

もうひとつの特徴は「完熟哲学」。ソーヴィニヨン・ブランやアリゴテのように比較的早く収穫してもワインが出来てしまうブドウを誰よりも遅く収穫し、果実の成熟と冷涼な土地に由来する酸との調和を図っています。また、多くの生産者がアリゴテを軽んじてか、6カ月程度の短い熟成でリリースするのに対し、彼は18カ月間ステンレスタンク熟成させ、ワインの味わいの調和を図っています。最も安価なブルゴーニュ品種のアリゴテでこの哲学を実践している造り手はそう多くはありません。今やブルゴーニュ全域を悩ませる霜害はかつてはシャブリ地域に多く見受けられ、シャブリの生産者が畑でストーブを焚く光景を写真で目にしたことがある人も少なくないでしょう。サン・ブリの地はシャブリから直線距離で15kmほどですが、サン・ブリでは霜害の影響はあまりないといわれています。ブルゴーニュ唯一のソーヴィニヨン・ブランの産地として例外的なアペラシオンとして見られがちですが、その味わいは極めて真っ当なブルゴーニュの味わいです。

古代品種「フィエ・グリ」を所有する3生産者のうちのひとり

テロワールを尊重することを第一にブドウ栽培を行っており、除草剤、殺虫剤を一切使わず妥協のない仕事をしています。さらに最上の原料となるブドウの健全さを得るために、あらゆる段階でブドウ樹が求めるすべてを理解する必要があるといい、厳格な剪定、そして最適となる収穫日の見極めを重要視しています。また、2012年にピエール・ルイはフランスではほぼ絶滅していたソーヴィニヨン・ブランの古代品種、フィエ・グリをマサル・セレクションで植樹しました。この品種はピンクがかった果皮をもつグリ系品種で、ワインに繊細でエレガントな香りを与えてくれます。現在ブルゴーニュでは、サン・ブリ・ル・ヴィヌー村でしか栽培されていない希少で例外的なブドウで、彼の知る限りサン・ブリの中でも彼を含めて3軒ほどしか所有していません。彼がこの品種を植樹した時、周囲の生産者からは嘲笑されたといいます。しかし出来上がったワインを飲んで手の平を返したように周囲の態度が変わったそうです。ボディとストラクチャー、余韻の複雑さがあり、数十年後のサン・ブリでは重要な品種になっているかもしれません。

観光名所にもなっている11～12世紀頃に造られた地下カーヴ

すべてはブドウにあるとの考えから、培養酵母は一切添加しません。ワインは11～12世紀頃に造られた丸天井の地下カーヴでゆっくりと熟成させており、イギリスとの100年戦争時に塹壕として造られたまるで迷路のように入り組んだ地下カーヴは、この地方の観光名所にもなっています。年間生産量はおよそ15万本。そのうち半分は日本を始めイギリスやベルギー、アメリカなどに輸出されています。