■はじめに
業務部の橋本です。
実はワイン専門店のワイングロッサリーは、この度、特別な日本酒の取り扱いをスタートします。
何故ワイン専門店が日本酒を?という理由はこちらにありますので、ご覧ください。
今回はその中の一つ、而今の宇奈根についての私なりのご報告です!
さてさて、「今、日本で手に入りにくい日本酒は?」と聞いてまっさきに思い浮かぶのは、なんでしょうか?
- ・十四代(高木酒造)山形県
- ・新政 秋田県
そして、
- ・而今(木屋正酒造)三重県
だと思います。
どれも生産量が少なく、流通ルートも限られており、「幻」とさえ言われています。
今回は、その中でも而今を造る木屋正酒造を訪問できるという、非常に貴重な体験をさせてもらいました。
■而今と木屋正酒造
而今(じこん)を造る木屋正酒造は、1818年(文政元年)創業、三重・名張の老舗酒蔵。
「高砂」ブランドで有名ではありましたが、世間の日本酒離れなどもあり、
一時は廃業の危機にあったそうです。
しかし、6代目にあたる大西唯克氏が2004年に産み出した「而今」が高評価を受け、
瞬く間に日本トップの蔵元へと昇り詰めました。
一風変わった「而今」という名前は、6代目唯克氏のお母様が命名されました。
「過去にも囚われず、未来にも囚われず、今をただ精一杯に生きる」
―曹洞宗の開祖・道元禅師が唱えた禅の言葉です。
この哲学は而今のロゴにも表現されています。

右上が「過去」左上が「現在」そして左下の空白部が「未来」を意味しています。
(未来はまだ分からないものだから空白なのだそうです)
そして「現在」から右下へ向かって流れる時を表現し、今を精一杯生きるエネルギーが感じられるロゴになっています。
屋号が「木屋正」というだけあって、酒造りを始める前は材木商でした。
その時の名残でしょうか、今でも「大西山」という山林を近所に所有しておられます。
その規模は5万平方メートルにも及び、東京ドーム1.2個分に相当します。

杉とヒノキの森はきっちりと手入れされており、
立木の一定の高さまで枝を切り落とす枝打ちも適宜行われており、
山の景観も保たれております。
山や自然を守り、きれいな水源が確保できることで、仕込み水として酒造りにも活かされています。
また、その長い歴史は地元の神社「宇流冨志禰(うるふしね)神社」でも垣間見る事ができます。
「うるふしね」は、この地を「潤す」豊かな「伏水(ふしみず)」が由来とされ、
実際に名張川、宇陀川が合流する場所に位置します。
水と米が豊富な名張では昔は酒造りが盛んで、多くの酒蔵があったそうで、
神社の賽銭箱にも先々代の名前が刻まれています。

とても小さい神社ではありますが、かつて天照大神を祀るにふさわしい地を求めて
全国を巡った倭姫命(やまとひめのみこと)が探し歩いた「元伊勢二十六社」の一つで、
倭姫が最も長い2年もの時を過ごした古社と言われています。
また、主祭神は宇奈根命(うなねのみこと)。「(名張)川がうねる⇒うなね」が由来と言われています。
而今「宇奈根」はまさにこの主祭神の名前を冠したお酒なのです。
■宇奈根の田んぼ
たまに、蔵元さんが自ら栽培したお米で造ったお酒を見ることもありますが、
而今では田んぼや土に含まれる納豆菌などの菌類を蔵に持ち込まない為に、
栽培は契約農家さんがおこなっています。
而今「宇奈根」のお米は、名張でも最上の酒米を生むとされる「美旗地区」の名張山田錦100%。


しっかりとした粘土質で、肥料の栄養分が水で流されにくい、お米の生育には最適な土壌です。
5/25に訪問したのですが、食用米は既に田植えが終わっていたのに対して、而今はまだ田植え前でした。
近年、温暖化の影響で暑くなってきており、高温障害を防ぐために、
田植えの時期を遅らせることで、収穫時期を遅らせているそうです。
■蔵


蔵があるのは歴史的な宿場町の面影を残す初瀬街道。
有形文化財に指定された古い建物ですが、日本には数台しかない最新の洗米機や、
温度管理に機械を導入するなど、最新の設備が備わっています。
大西氏の酒造りの哲学は
- ・水分
- ・温度
- ・タイミング
最新技術を使ってこれらをコントロールし、その哲学をお酒に封じこめます。
勿論、人がやらないといけないところは人の手によって行われますが、
新しい設備を導入し、機械でもできることは機械化することで、
蔵人の負担を軽減させる事に成功しています。
多くの醸造工程の中で大西氏が最も大切だと語るのが、お米のデンプンを糖に変える「麹」造りです。
大西氏は「麹造りが酒造りを決める」と断言され、究極の麹造りにこだわっています。


麹米になるお米も元は普通の酒米です。種麹を加えて麹を造っていきます。


緻密な温度管理が求められる作業になります。
麹造りは人の手で行いますが、麹を育成する作業は機械管理。
一度だけ機械の不具合で温度管理がうまくいかず麹が全部ダメになった事もあったそうです。

宇奈根専用の発酵タンク。
一番手前が宇奈根です。
定番の而今と比べて瓶の形も変えて、新しい而今として差別化を図っています。
■而今 宇奈根 純米大吟醸
ファイン日本酒のランクでも最高峰の純米大吟醸。
地元名張の山田錦を100%使用し、40%まで精米しています。
そして、今まで而今ではなかった、生酛造りを実現しています。
「喉の奥にキラキラとした余韻が長く残るお酒」と大西氏は表現されていますが、
本当にその通りで、余韻の長さはもちろん、雑味の全くない、
それでいて日本酒ならではの飲みごたえと旨味を存分に味わえる
「今までに出会ったことのないお酒」と感じました。
■あとがき
日本酒というのは、飲用はもちろん、料理やお清めにまでも使われるほど我々の身近にある存在です。
その反面、「日本酒」というカテゴリーで大量生産された日本酒も
蔵人が精魂込めて造られたお酒(我々はそれを「ファイン日本酒」と呼びます)も一緒に扱われ、
値段こそ違えど、スーパーなどでは並べて置かれているのも現状です。
かつての自分も大量生産されたお酒だけを飲んで「日本酒は美味しくない」とか「二日酔いがひどい」とか思っていた時期もありました。
しかし地酒を中心に良いファイン日本酒を飲む機会や蔵元さんに行く機会もあり、徐々にファイン日本酒に魅せられてきました。
日本酒が身近な存在であるからこそ、我々ファイン日本酒を販売する方もしっかりと蔵元さんの思いや、背景、その苦労などをしっかりと伝え、本当に美味しいお酒を手にとってもらえるように、努めていかなければならないと強く思いました。
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