急斜面と熟成の魔法──ラッツェンベルガー醸造代
こんにちは!ドイツ担当の瀬尾です。今年5月、念願のドイツへ行ってまいりました!そこで出会ったのは、ワインの背景にある人と土地の物語。現地での感動を訪問記&ワインフェアで皆様にお伝えします!
ファルツを出て北上し、車はライン川沿いのミッテルライン地方へ。車窓から見えるのは、まさに絵画のように連なるブドウ畑と急斜面の風景。その傾斜の鋭さに、ただただ圧倒されながら、胸の高鳴りが止まりません。
そして、その感動が頂点に達したのが、ラッツェンベルガー醸造所の誇る畑、シュロス・フュルステンベルクに降り立った時でした。



陽気なヨハンさんと、忘れられた古城畑
ポルシェを爽快に操りながら登場したのは、当主のヨハン・ラッツェンベルガーさん。笑顔が絶えず、冗談を連発する陽気な方ですが、その言葉の端々には、土地とワインへの深い愛情が感じられます。
まず案内されたのは、11世紀の古城に隣接するモノポール。この畑、あまりの急勾配と作業の大変さからかつては忘れ去られていた存在でしたが、ヨハンさんが2016年に購入・復興。なんとこの畑だけが真南向きで、光の恩恵をたっぷり受ける特別な区画です。
土壌は黒色粘板岩。古城や民家にも使われている石材で、ワインに芯のあるミネラル感をもたらします。テラス仕立てで土壌流出を防ぎながら、気の遠くなるような手作業で栽培が行われています。
城と畑を結ぶ橋の上で、まずいただいたのはリースリング・ゼクト2019。その年はブドウが素晴らしく、ノンドゼ(ドサージュなし)でも丸みと奥行きがあり、飲み手を包み込むような優しさのある味わいでした。彼のゼクトは非常に長い熟成期間が特徴で、ワイングロッサリーのスタッフの中でもファンが多い名品です。「この味わいが普段使いにできてしまう価格って…凄すぎるよねbyショップスタッフ」
続けて試飲したシュロス・フュルシステンベルク・リースリング2023は、レモンや白い花を思わせるアロマに、クリアで上品な酸。キレがありながらもどこか温かみを感じる、印象的な一本でした。



偏見を吹き飛ばすリースリングの可能性
試飲の後はテイスティングルームへ。なんと、ヨハンさんの娘さん手作りのランチをいただきました。
- カルダモン入りのポテトポタージュ
- シュパーゲルのキッシュ
- 山のイノシシのハム
中でも、カルダモン香るポタージュとリースリングのペアリングは圧巻。少し残糖を感じるタイプのリースリングが、香りとスパイス感を引き立て、心まで温まるような味わいに。
ヨハンさん曰く、「残糖は、ワインに素晴らしいバランスをもたらす」とのこと。でもその魅力を伝えるには、まず辛口で評価を得ることが大切だと語ります。たしかに、リースリング=甘い=敬遠、という固定観念があるのは事実。でも、ラッツェンベルガーのように上品で透明感のある甘やかさを体験すれば、そんな偏見はすぐに吹き飛びますよ。
そして特徴的なクリーミーな質感の秘密は、8〜9カ月という長期低温発酵。木樽は一切使わず、澱との長い接触によってまろやかさと厚みを引き出しています。



この地でしか表現できないミネラルと果実の調和、甘みと酸の絶妙なバランスは、和食とも自然に寄り添う味わい。
陽気でチャーミングなヨハンさんの人柄と、土地を見つめる真摯な姿勢が、グラスの中で見事に表現されていました。
甘口=敬遠、はもったいなさすぎる。
そう思わせる、“温故知新”のリースリングです。
そのバランスを知ったとき、きっとあなたのリースリング観は変わります。
今回ご紹介するワインは…

ラッツェンベルガー バッハラッハー シュペートブルグンダー ゼクト ブリュット 2017
瓶内二次発酵後、7年以上の熟成。収量制限をしっかり行ったピノ・ノワールを使用しているため、長期瓶内熟成にも関わらず酸化のニュアンスは全くなくフレッシュで、ブリオッシュのような風味が素晴らしいピノ・ノワールです。

ラッツェンベルガー バッハラッハー ヴォルフスヘーレ リースリング シュペートレーゼ 2011
白い花びらや蜜のクリーミーで肉厚な香りに、白い果実の麗しいアロマが重なります。熟した果実の複雑で奥深い旨みが口いっぱいに広がる豊潤な一本。甘みも心地よく、透明感に溢れた仕上がりで、熟成によってさらに圧巻の味わいへと昇華しています。
デザートとの相性はもちろん、お肉料理とも絶妙にマッチ。甘美でありながら食事にも寄り添う、万能なワインです。