鋼の意志が宿るリースリング──ブロイヤー醸造所
こんにちは!ドイツ担当の瀬尾です。今年5月、念願のドイツへ行ってまいりました!そこで出会ったのは、ワインの背景にある人と土地の物語。現地での感動を訪問記&ワインフェアで皆様にお伝えします!
ラインガウ地方の名門ワイナリー、ゲオルグ・ブロイヤー醸造所。その現当主であるテレーザ・ブロイヤーさんは、明るくエネルギッシュで、まさに「ついて行きたくなる」ような存在感のある女性です。
厳しい自然を相手に真っ直ぐに向き合う彼女の姿に、強さと優しさ、そしてしなやかな情熱を感じました。



運命が引き寄せた畑、ロルヒとの再会
2018年末、彼女に1本の電話がかかってきました。「畑を買わないか?」という、思いがけない提案。増やすつもりはなかったものの、話を聞くうちにその土地が祖父ゲオルグの兄弟が管理していた畑であり、自身の家系とつながりがあることがわかります。
かつて絶縁していたという兄弟。けれども時を経て、その畑が再び家族の手に戻ってきた。運命を感じたテレーザさんは、この畑を受け継ぐ決意をしました。
場所はロルヒ。地理的にはミッテルライン、でもラインガウワインとしてリリースされている特異なエリア。西向きの急斜面で、スレートと珪岩の混合土壌。日照量は限られるものの、午後の光がゆっくりと注がれ、塩味のあるミネラル感が際立つ、引き締まったスタイルのリースリングが生まれます。



「命が惜しくない人は、ついてきて!」
テレーザさんが案内してくれたロルヒの畑は、まさに崖のような急斜面。見下ろすだけでも足がすくむその傾斜を、私たちは実際に下から上まで歩いてみました。
……想像以上でした。
息が切れ、足が震える中で、「ここで剪定や摘果、収穫をしているなんて」と思うと、胸が締めつけられるような気持ちに。
この極限の環境で生まれるワインには、“畑で生きる人々の意志”が詰まっている。そう強く感じました。
次に向かったのは、リューデスハイムの畑。上と下では200mの高低差があり、土壌構成も異なります。上にいくほどクオーツの割合が増え、スレートとのバランスで適度な蓄熱性を保つ、非常に計算されたテロワール。
ここもまた急斜面で、高所恐怖症の方には厳しいほどの迫力…。ブロイヤーの畑は、どこも気軽な観光気分では済まされない、“命がけの美”を感じさせる場所ばかりです。
その後、ライン川を船で下り、リューデスハイムの街にあるブロイヤー醸造所を見学。
驚いたのは、極端に小さなステンレスタンクの数々。区画ごとの醸造を徹底しているのです。
セラーの奥には、かつて使われていた醸造スペースがあり、今はテイスティングルームやイベントスペースとして使われていますが、そこからも歴史と革新が共存する空気が漂っていました。
ブロイヤーのワインは、とにかく超辛口でストイック。
リースリングに求められるミネラル感、酸、緊張感のある果実味が圧倒的な精度で存在しています。
とくにGGクラス(グローセス・ゲヴェックス)は数年、あるいは10年単位の熟成を経てこそ、その本領が発揮されるタイプです。



過酷な土地で、人間の限界に挑むように育まれるリースリング。
ブロイヤーのワインには、ただの美味しさ以上の“覚悟”がある。
明るく、真っ直ぐに、そしてユーモアも忘れないテレーザさんの姿は、まさに現代のヴィンツァー(造り手)の理想像そのもの。
このワインが語るのは、鋼の意志と、土地への愛。
時間をかけて向き合うにふさわしい、真のグラン・ヴァンです。
今回ご紹介するワインは…

ゲオルグ・ブロイヤー シュペートブルグンダー ロゼ 2022
こちらは、ゼクト用に少し早摘みしたブドウを使用し、ステンレスタンクで熟成されたロゼワインです。造りはほぼブランドノワールと同様ですが、「ピンクの方がかわいいじゃない!」という、テレーザ・ブロイヤーさんの想いから、ほんの1%だけ赤ワインを加えて、やわらかなロゼ色に仕上げています。
しっかりとした酸が感じられる非常にドライな味わいで、赤スグリのような果実味が心地よく広がります。チャーミングな色合いで、カジュアルながらしっかりと造り込まれた1本です。

ゲオルグ・ブロイヤー テラ・モントーサ リースリング 2021
こちらは5つの特級畑のブドウをブレンドして造られるとっても贅沢なセカンドラベルのリースリング。キュヴェ名の「テラ・モントーサ」とはラテン語で急斜面を表し、エチケットは斜面の断面図を表しています。1.200Lの大樽での熟成。
黄色い果実や甘やかなスパイスの香り。果実味のコクがしっかりありつつも、透明感のある芯の通ったミネラルを感じます。セカンドラベルながらまさに特級格の風格をもつ一本。