赤色砂岩の奇跡——フュルスト醸造所を訪ねて
こんにちは!ドイツ担当の瀬尾です。今年5月、念願のドイツへ行ってまいりました!そこで出会ったのは、ワインの背景にある人と土地の物語。現地での感動を訪問記&ワインフェアで皆様にお伝えします!
ドイツ到着初日の夜。長旅の疲れを引きずりながら向かったのは、フランケン地方を代表するフュルスト醸造所。テイスティングルームには、温かな灯りとともに、当主セバスチャンさんご夫妻の笑顔が迎えてくれました。
「移動でお疲れでしょうから、重いものは控えましょう」と出してくださったのは、自家製の平打ちパスタに、とろけるほど煮込んだ肉とベリーのソースを添えた一皿。4種のチーズ、軽めのパンも並び、どれも優しく染み入る味わい。バターを使っているのに重さを感じさせない、まさに“気遣いの料理”でした。
合わせたのは、フュルストのブラン・ド・ブラン2017、ビュルクシュタッター・ベルク・シャルドネ2019、そしてツェントグラーフェンベルク・シュペートブルグンダー2015。どれも繊細かつエレガントな味わいで、長旅の疲れが一気に吹き飛ぶ一夜となりました。



翌日:伝説のワインメーカー、パウル・フュルストさんと畑へ
朝、宿に現れたのは前当主のパウル・フュルストさん。VDP(ドイツの格付け制度)設立にも関わった、まさに“生きる伝説”です。お会いするまでは皆やや緊張していましたが、実際はとても気さくで笑顔が絶えない素敵な方。こんなに親切な人が、本当にあの“パウル・フュルスト”なの…?
向かったのは、森を抜けた先にあるクリンゲンベルグ村。そこに広がるのは、古城のふもとに築かれた、シュロスベルグ(城の丘)という名のブドウ畑。特徴的なのは、ピュアな赤色砂岩土壌。世界でもここだけといわれるこの土壌が、ワインに独自のスパイシーさとミネラル感を与えてくれます。
機械が入れないため、堆肥もすべて手作業。効率よりも品質を優先する姿勢に頭が下がります。しかもこの畑、日照の違いにより収穫時期に最大8日もの差が出るとか。その差を逆に生かし、味わいのバランスを取る——自然と向き合う、まさにクラフトマンシップです。
その後、ビュルクシュタットに戻り、グランクリュ「フンツリュック」を見学。高密植・低仕立てというスタイルは、風通しの良さがそれを可能にしています。



醸造所と試飲
収穫には小さな赤いバスケット、発酵は約2週間、熟成は最長で1年。ボトリングにまで繊細さを追求した設備が整っていました。大樽はリースリング、小樽はピノ用、と明確に使い分けています。
そんなフュルストが造るワインの特徴は、スパイシーで華やかな香り、締まりのある果実味、そして長く続く余韻。赤色砂岩という唯一無二のテロワールと、それを最大限に生かす人々の誠実さが、この味わいに表れています。



フュルスト醸造所での体験は、ワインそのものの美味しさと共に、「人のあたたかさ」が深く印象に残るものでした。厳しくも美しい土地で、真摯にワインと向き合う姿に心を打たれっぱなし。あの日味わった1杯の記憶は、今も深く胸に残っています。
今回ご紹介するワインは…

ルドルフ・フュルスト トラディション シュペートブルグンダー 2022
トラディションはフュルスト醸造所のベーシックキュヴェです。やや若樹のブドウと一部樹齢40年のブドウを使用し、228Lの古樽にて14カ月以上熟成させています。
ベーシックキュヴェながら、フュルストらしさを存分に味わっていただける1本!赤い果実やサワーチェリーのような香りに、しっかりとした酸とミネラルに溢れた透明感のあるエレガントなピノ・ノワール。バランスが素晴らしく、凛とした緊張感のある一本です。