“ワインは人がつくる”─ゲルト・ステップのスマートな挑戦

こんにちは!ドイツ担当の瀬尾です。今年5月、念願のドイツへ行ってまいりました!そこで出会ったのは、ワインの背景にある人と土地の物語。現地での感動を訪問記&ワインフェアで皆様にお伝えします!

ドイツ・ファルツ地方、緑に囲まれた住宅街の一角に、現在建設中のワイナリーがあります。案内してくれたのは、スリムな佇まいに優しさを湛えた笑顔が印象的な、ゲルト・ステップさん

元々はファルツの小さな醸造家の家庭に生まれたゲルトさん。大学卒業後はグローバル企業でのビジネスキャリアを歩み、その後ワインの世界へ。コンサルタントとして世界各国のワイン造りに関わり、ワインビジネスについて知り尽くした彼は、ついに2020年、生まれ故郷に戻ってきました。


今できる最高のワインを届けるために

現在、ゲルトさんのご自宅兼ワイナリーは大規模リノベーションの真っ只中。建設許可が下りるまでにも時間がかかったというこの場所は、古くからの家が立ち並ぶ高級住宅街のど真ん中。設備投資だけでなく、地域との調整も一筋縄ではいかなかったそう。

自社畑も持っていますが、多くのブドウは信頼する契約農家から購入。「ただ買うだけ」ではなく、実際に畑仕事にも携わりながら品質を管理しているとのこと。

「手に取りやすい価格で最高のワインを届けたい」

そんなゲルトさんの思いを実現できる、柔軟でスマートな方法だと感じました。

熟成庫からの“確かな説得力”

工事中のワイナリーの地下には小さな熟成庫があり、そこで特別に樽から試飲させていただきました。使用するのはすべてフレンチオークの古樽。しかも、ブルゴーニュの一級・特級を熟成していた名門の樽を譲り受けているとのこと。

「いいワインを育てた樽は、木そのものの質がいいから」と語るゲルトさん。その一言に、技術だけでなく“モノを見抜く目”を感じます。

正直「買いブドウが中心」と聞いて、多少の不安もありました。しかし、一口飲んだ瞬間にその印象は一変。

バランス、香りの精妙さ、飲み心地の良さ──
どれもが洗練されていて、価格をはるかに超えるクオリティ。

ワイン造りに必要なコストが上がり続ける今、新規の生産者が自社畑や設備を持つのは難しくなっています。そんな中、ゲルトさんのようなやり方でワインを造る生産者が増えているのだそう。センス・経験・そして人柄、それらが揃っていれば、ここまで素晴らしいワインが生まれるのだと、心から納得させられました。


どのキュヴェも味わいのバランスが絶妙。フレッシュでありながら奥行きもあり、明らかに価格以上の完成度。
今後もっともっと人気が出るだろうな、と確信できる要注目の新星です。

「手に取りやすく、でも品質に妥協はしない」
この潔くも美しい哲学こそ、彼のワインの一番の魅力なのかもしれません。
機会があれば、ぜひ一度グラスに注いでみてください。その味に、静かに驚かされるはずです。


今回ご紹介するワインは…

こちらはファルツで最も標高の高い、石灰岩土壌の畑のピノ・ブランを使用。ステンレスタンクで熟成させることでブドウ本来のフレッシュさを最大限に引き出しています。

シュール・リー製法からくるブリオッシュを思わせる香ばしいアロマが広がり、クリーミーかつミネラル感に富んだ味わいが魅力。レモンやリンゴのジューシーな果実味が口いっぱいに弾ける、まさに“ぴちっとした”果実のエネルギーに満ちた必飲の一本です。