未来を見据えた名門・フーバー醸造所
こんにちは!ドイツ担当の瀬尾です。今年5月、念願のドイツへ行ってまいりました!そこで出会ったのは、ワインの背景にある人と土地の物語。現地での感動を訪問記&ワインフェアで皆様にお伝えします!
ドイツ・ミルテンベルクから車で約3時間半。バーデン地方のフライブルグという街に到着しました。ここは美しい大聖堂を擁する歴史ある街で、滞在はその中心部にある趣深いホテル。
夜は郊外のレストランで、現当主のユリアン・フーバーさんとのディナー。明るい笑顔が印象的で、終始フレンドリーなユリアンさん。ドイツ春の名物シュパーゲル(ホワイトアスパラ)や、カリッと揚げたシュニッツェルなどを囲みながら、ワインが次々に登場します。どれもエレガントながら芯があり、フーバーの哲学を感じる味わいで、お料理にピッタリでした。



翌日:畑と自然環境の“生きた教科書”
翌朝、車で1時間ほど移動し、醸造所のあるマルターディンゲン村へ。最初に案内されたのは、ワイナリーすぐそばのビーネンベルク(蜂の丘)。ここには、なんと樹齢70年の古樹が現役で根を張っています。ヴォージュ山脈と黒い森に守られたこの地は、日照、降水量、気温、風すべてがブドウ栽培に理想的。自然のバランスが生んだ“奇跡の土地”とも言えるでしょう。
続いて訪れたのは、ヘックリンゲン村のシュロスベルグ。元テラスの畑を斜面に造り替えた場所で、その傾斜はまさに絶壁級。ここでは石灰質のミネラルをたっぷり吸った、引き締まった味わいのブドウが育ちます。
さらに、黒い森=シュヴァルツヴァルトの裾野に位置するゾンマーハルデ(ボンバッハ村)へ。森からの冷気が流れ込むためとても涼しく、雨も少なめ。土壌は石灰と粘土のミックスで、穏やかで優しい表情のワインが育ちます。ユリアンさんも「ここに来ると平和な気持ちになるんだ」と語っていた、どこか静謐な雰囲気の畑でした。
最後に戻ったのは再びマルターディンゲン村。ビーネンベルクの中でも特に日当たりの良い斜面にあるグラン・クリュヴィルテンシュタイン。表土がほとんどないため、ブドウの根がかなり地中深くまで入って行き、骨格ある壮大な味わいをもたらします。



未来も見据えたワイン造りの哲学
フーバーのワイン造りは極めてシンプルで誠実。基本的に全房発酵は行わず、新樽率は約30%前後。キュヴェ名にも登場する「アルテレーベン(古樹)」は1950〜80年代に植えられたピノ・ノワールで、徹底した摘果と低収量により高品質を実現しています。
しかしながら、ユリアンさんは「次世代のため」と語りながら、徐々にブルゴーニュ系のクローンへの植え替えも進めています。さらにはピノ・ブランやピノ・グリも、よりポテンシャルの高いシャルドネへと移行中。今すぐの成果ではなく、50年先を見据えた決断です。



ワインはどれもミネラル感が豊かで旨みがあり、密度が高く、緊張感のある味わい。ドイツという枠を軽々と超える“世界基準”のクオリティでした。
フーバー醸造所の魅力は、テロワールの豊かさだけではありません。自然を読み、未来を見据え、誠実にワインと向き合うユリアンさんの姿勢に、心を打たれます。
今回ご紹介するワインは…

2021年初リリースの、ピノ系品種2種をブレンドして造られる白ワイン。ブライスガウはフーバー醸造所のあるバーデンのベライヒの名で、村名より広域の括りになります。3つの村のぶどうを使用しており、天然酵母で発酵後、新樽比率30%で14~16カ月の樽熟成を行います。
品種の個性というより、硬い石灰岩を思わせる硬質なミネラルを感じる、フーバー節に溢れた洗練されつくした味わい。ブルゴーニュ好きにおすすめしたい一本です。

ベルンハルト・フーバー マルターディンガー シュペートブルグンダー 2021
こちらは醸造所のあるマルターディンゲン村のブドウを使用した、いわゆる村名クラス。ベーシックなレンジのワインに比べ、若干樹齢も古く、収量も落としています。グラン・クリュ「ビーネンベルク」の樹齢20年前後のブドウのみから造られていますが、上級クラスとの差別化を図るため、あえて畑名は表記していません。複数回使用済みの樽も用いており、樽の印象を与えないスタイル。
やや淡い赤中心のルビーレッド。クランベリー、サワーチェリーのような新鮮な小粒の赤いベリーの香りが広がります。酸が非常に柔らかく、タンニンも驚くほどしなやかで繊細。上級ブルゴーニュを彷彿させるほど完成度を誇る逸品!