静かで真摯な説得力―マルティン・ヴァスマー醸造所を訪ねて

こんにちは!ドイツ担当の瀬尾です。今年5月、念願のドイツへ行ってまいりました!そこで出会ったのは、ワインの背景にある人と土地の物語。現地での感動を訪問記&ワインフェアで皆様にお伝えします!

黒い森のふもと、ドイツ南西部のバート・クロツィンゲン村。この静かな土地に、どこまでも穏やかで真摯な空気をまとったマルティン・ヴァスマー親子が営むワイナリーがあります。

案内していただいたのは、村の象徴的な畑カステルベルク(ドッティンゲン村)。南〜南東向きの最大35度もの急斜面は、テラス状に整備され、まるで階段のように空へと伸びていきます。露出した斜面からは、石灰泥灰岩や石灰岩、そして赤土混じりの風化土壌に混じるゴロゴロとした石がよく見えます。まさに“土壌が語る”風景。

この地で、南北に30キロ以上にもわたって多様な畑を所有するヴァスマー家。それぞれの畑が個性的なワインを生み出し、まるで一冊の短編集のようなラインナップが魅力です。



ワイン造りの始まりは…アスパラガス!?

実はマルティン・ヴァスマーさん、もともとは料理人。その後、両親の農業を継ぐことになり、始めたのがホワイトアスパラガスの栽培でした。これが大成功。今ではヴァスマー家のアスパラは、ドイツ中のレストランに愛される“逸品”となっています。

私自身、この旅でなんと何度もヴァスマー産のアスパラを味わうことに。瑞々しくて、甘く、どれだけ食べても飽きない感動の味でした。

「このアスパラに合う、もっと美味しい地元のワインを造りたい」。その思いから、なんと37歳でゼロから始めたのがワイン造り。当初はたった3ヘクタールの畑からのスタートでした。

現在は、フランス・メオ・カミュゼで修業した娘サブリナさん、フーバー醸造所研修を行った息子マーヴィンさんも加わり、まさに家族一丸で醸造所を支えています。


ワイン造りへのこだわりと姿勢

マルティン・ヴァスマー醸造所のスタイルは、とにかく丁寧かつストイック。エントリークラスでも収量は非常に低く抑えられ、畑名入りワインではなんと30〜40ヘクトリットル/haという少量生産。ベーシックキュヴェ以上ではフレンチオークを使用し、ニュアンスではなく“複雑さ”を引き出すための熟成が行われています。

この日の試飲では、次々とワインを注いでくださるサービス精神に圧倒される場面も(笑)。気づけばグラスの数が…という嬉しい悲鳴。

夜は、マルティンさん行きつけの黒い森の中にあるホテルに宿泊。レストランでは、もちろんヴァスマー産のホワイトアスパラとワインのペアリングを堪能しました。


緻密で、透明感のある味わい。それがヴァスマーのワインの第一印象。しみじみと染み入るような余韻が続きます。テロワールごとの個性も際立ち、まさに“飲み続けられるワイン”という哲学が体現されていました。

アスパラガスから始まったワイン造りの道。それは家族の絆に支えられ、土地の個性を見つめながら丁寧に紡がれてきたものでした。
実直でやさしく、静かな説得力
そんなワインを愛する人には、ヴァスマーの1本をぜひおすすめしたいと感じました。


今回ご紹介するワインは…

かつてドイツを圧巻した品種ミュラートゥルガウ。日本で見かけることも少なくなってきましたが、ヴァスマーさんのミュラートゥルガウは格別!バート・クロツィンゲン村の優良区画の樹齢15年と40年の古樹から低収量で造られた、価格以上の贅沢なミュラートゥルガウです。

白い百合のようなアロマに、充実しハリのある果実味。超高級ミネラルウォーターのような透明感あるミネラルと美しい酸が魅力的です。かすかな残糖に癒される、辛口党にも試してほしい一本。

こちらは驚きのプライスパフォーマンスを誇るベーシッククラスのピノ・ノワール!

イチゴやチェリーを思わせるピュアで軽やかな赤い果実味の風味が魅力。さらに美しい酸によって非常に爽やかな飲み心地に。これからの季節にもピッタリな一本です。