ショップ店長の名取です!12月1日に大阪で木下インターナショナル様主催のもと行われたワインセミナーに参加してきました!2018年初来日以来で今回が初セミナーということでしたが、淡々とかつ理性的にワインを語る様が実に堂々としており、ところどころに信念をうかがえる内容でした。その内容をお送りします。
ところが一度スタートすると、名通訳・北沢氏との息の合ったやり取りが軽快で、絶妙なトークが次々と繰り広げられました。


■クレール・ノーダン女史とは
ブルゴーニュには数多くの名門生産者が存在しますが、その中でも「アンリ・ノーダン・フェラン」は独自の進化を続ける稀有なドメーヌです。16世紀から続くブドウ栽培の家系に生まれたノーダン家が現在の形を築いたのは1850年代。Magny-lès-Villers に畑を得たことが出発点でした。そして1994年、この歴史あるドメーヌを受け継いだのが、現当主クレール・ノーダンです。クレールには二人の姉がいましたが、当時ブルゴーニュで女性が家業のドメーヌを継ぐ例は非常に少なく、父アンリも存続を危ぶんでいたと言います。そんな中、農業工学を学んでいた三女クレールが1991年にドメーヌへ戻り、ワイン造りに本格的に携わり始めました。若い頃の彼女は醸造技術そのものを徹底的に学び、実験的な取り組みも重ねました。しかし数年の学びを経て辿り着いた答えは、「偉大なワインとは、造り手の365日・毎日の不断の努力によってのみ生まれる」というごくシンプルかつ深い真理でした。
■持続可能な栽培と“自然に逆らわない”アプローチ
クレールの栽培哲学は徹底しています。ドメーヌ全体の21haに及ぶ畑のうち80%はオート・コートなどの地域アペラシオンですが、村名アロース・コルトン、1級はニュイ・サン・ジョルジュやラドワ、そしてグラン・クリュのエシェゾーまで幅広く所有しています。樹齢は平均35年。黒ブドウ65%(ほぼピノ・ノワール)、白ブドウ35%(アリゴテ・シャルドネ・ピノ・ブラン)という構成です。除草剤は完全に使用せず、BIO 認証こそ取得していないものの実際の畑仕事は2005年ごろからビオロジックそのもの。さらに硫酸銅の蓄積を懸念し、海藻やハーブティーを用いた代替処置を進めるなど、より未来を見据えた独自の実験的取り組みも行っています。
(地図はコルゴロワンに所有する畑のある区画)

■二つのレンジに込められた“歴史”と“革新”
ドメーヌのワインは現在、二つのレンジに分けられています。
- アンリ・ノーダン-フェラン
伝統的ブルゴーニュの味わいを継承。完全除梗、クラシカルな造り。 - クレール・ノーダン
彼女の新たな感性を反映した、よりナチュラルなスタイル。
全房発酵を取り入れ、果実の生命力をよりピュアに表現。
ラベルも明確に異なり、クレール名義のレンジには彼女のサインとワイン名にちなんだイラストが描かれます。こちらは夫であるドメーヌ・ビゾのジャン・イヴ・ビゾ氏の影響もみられ、自然発酵・最小限の介入・ポンプ不使用など現代的ナチュラルワインのエッセンスを取り込んでいます。現在、畑の約66%がクレール・レンジへ移行しており、ドメーヌ全体が新しい時代へと舵を切りつつある状況です。
■醸造哲学 ― “放置ではなく、見守る自然”
クレールの醸造は、技術の削ぎ落としと観察の積み重ねです。
- ポンプを廃し、果実を痛めずクリーンな果汁を得る
- 自生酵母を活かすため、SO₂の添加を極限まで抑える
- マロラクティック発酵終了まで無添加のキュヴェも多数
- 清澄は行わず、濾過も軽いものか、もしくは無濾過
- ボトリング時に少量のCO₂を残し、酸化から自然に守る
- 最良品質の天然コルクを使用
「ナチュラルワイン」と一言では括れません。彼女にとって自然とは“放置”ではなく、常にワインの声を聞き、必要な時だけほんの少し手を添える存在。例えば人気キュヴェ「オルキス」では、マロラクティック後にごく少量の SO₂ を添加します。これはワインを劣化させる野生酵母の働きを抑え、美しいテロワールの表現を守るため。この加減こそが、クレールの真骨頂と言えるでしょう。

■人が感じられる試飲
試飲の白は、オート・コート・ド・ボーヌ“ベリース・ペレニス”ブラン2022。本拠地のマニ・レ・ヴィレとペルナン・ヴェルジュレスのシャルドネをブレンド。この年代にしてはすでにゴールドがかっているが、シャブリのような全体を構成する分厚く逞しい酸味と石や砂、和柑橘から熟したリンゴやブリオッシュのような複雑さ。赤はオート・コート・ド・ボーヌ“オルキス・マスキュラ”2022。若さを感じさせる、エッジにピンクがかったルビーレッド。牡丹や菫のような赤い花に全房由来の芳しい香りが強く魅力的。酸がしっかりとしているが、タンニンは非常に柔らかい。アルコール度11~12%/ℓというスペックからも、クレールさんの努力や人間性が伺えます。
■ 伝統を未来へつなぐ造り手
クレール・ノーダンは、女性醸造家であり、母であり、そして伝統の継承者です。しかし彼女が目指すワインは伝統の焼き直しではありません。“未来のブルゴーニュ”を見据え、環境負荷・テロワールの純度・自然との調和を考え抜いたワイン造り。その姿勢こそ、いま世界中で評価されている理由と言えるでしょう。
ブルゴーニュの歴史の中で、女性が当主を務めることはかつて珍しいことでした。しかしクレールは先入観を軽々と飛び越え、伝統と革新を美しく統合し、唯一無二のスタイルを築き上げました。彼女の造るワインを味わうと、そこに宿る“日々の努力と観察の結晶”が静かに、しかし確かに伝わってきます。
彼女との対話で一番記憶に残っているのは、『まだまだブルゴーニュが存在可能な生産地だ』という言葉です。それは自然へのリスペクトを欠かさず、また最近の驚異的な変化にも対応してきた彼女ならではの説得力があるからです。もちろん暑さで畑やカーヴにカビが繁殖したり、ブドウの糖度が過度に上がってしまったりすることもありますが、散布材を効率良くまきまた散布して葉についていないものを空中から回収する機械やドローンの導入、畑でのブドウの徹底した管理、窒素を含められるブテイヤージュマシーンの使用など、その努力は枚挙に暇がありません。今回のセミナーを経て、ブドウという植物を含めた自然にどれだけ造り手が寄り添うことができるのか、また飲み手のアプローチ力が、今後の気候変動やブルゴーニュなどの土地の個性が表現される生産地あるいはそのワインにとって重要なのかが良く理解できました。
クレール・ノーダンさん、木下インターナショナル様、貴重な機会をありがとうございました!
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